よい看護、へたな看護、どうやって評価する?

看護の質ってどうやって評価するのでしょう?

 

 

看護の質ってすごく測定しにくいですよね。

 

「個別性」を大切にすることを教えられる看護師ですから、「なにがよい看護が、へたな看護かなんて患者さんによって全然違うよ」と思われるのも無理はないと思います。

 

それに質評価と言うのは「看護とは客観的に測定可能な行為である」という前提に基づいて行われるものですが、「看護は患者と看護師のあいだに成立する関係である」という捉え方もあり、この場合は客観的に評価は不可能です。現象学、質的研究法などという言葉がこのシチュエーションを捉える上では適しているかもしれません。

 

 

「完璧な客観的指標なんて存在しないんだから、看護を評価するなんて無理だよ」と思われる方もいるかもしれませんね。

 

 

しかし、それでは看護を評価することができません。

 

 

評価できなければ、せっかくよい看護が給与や昇進に繋がらないまま軽視されてしまいますし、そうなると「せっかく頑張っても評価されないんじゃ頑張る意味ないじゃん」と、やる気のある看護師のモチベーションを奪ってしまうことになります。

 

また、ペアナーシングシステムや新しい看護診断の方法などを病棟に導入しても、それが看護師や患者さんに与える影響をきちんと評価できなければ、「やっとのことで新しいシステムを導入したけど、これって結局良かったの、悪かったの?」という問いに答えることもできません。

 

他にも、スタッフを自分の好き嫌いで扱う師長さんがいたとしましょう。客観的な評価方法があれば、「〇〇さんはデータ上の看護の質は低くて、××さんは高いのに、〇〇さんばかりの意見ばかり採用して、主任するのはおかしい!」とはっきり言うことができます。

 

 

もちろん、客観的評価は完璧なものではないので、「この状況だとあの評価法は何だかしっくりこないな」という状況も沢山あると思います。ですので、評価法を使う上ではリテラシーが必要になります。何でもかんでも「評価上はこれが良いことなんだから、これが絶対に正しい」と考えるのではなく、評価法の限界を踏まえてたうえで付き合っていくことが大切ということですね。

 

 

今回は、そんな看護の質の評価法ですが、世界と日本でどのようなものが使われているのかをお伝えしたく、書いております。

 

 

 

 

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ドナベディアンの質評価モデル

さて、まずは看護の質を評価するうえでのフレームワークをご紹介しようと思います。

 

 

授業中に聞いたことがあるかもしれませんが、世界で最も有名な質評価のフレームワークが、ドナベディアンさんというアメリカの学者が作った医療の質評価モデルです。

 

 

このモデルでは、医療の質を

  • 構造(ストラクチャー)
  • 過程(プロセス)
  • 結果(アウトカム)

 

の3点から評価しようとします。

 

何だか堅苦しい言葉がでてきましたね。

 

でも、看護師の皆さんであれば現場の状況を想像してもらえれば無理なく理解してもらえると思うので、ご安心ください。

 

 

構造(ストラクチャー)

ストラクチャーとは「看護がどのような資源のもとに提供されたか」ということを指していて、例えば病棟の看護師数、看護師の収入、患者数、患者の看護必要度、看護師の労働時間なんかがこれに当たります。

 

 

過程(プロセス)

次にプロセスですが、これは「どのように看護を提供したか」というもので、たとえば患者にお薬をどのように飲んでもらったか、どのように歩行時の介助をしたか、などです。

 

「分かりにくい」と思われた方、その通り。プロセスは評価指標としても測定しにくいためか、他の2つに比べると評価方法としては使われる頻度が少ないです。

 

 

結果(アウトカム)

最後にアウトカムですが、これは最も分かりやすく、「提供した看護の結果はどのようであったか」というもの。例えば、患者さんの在院日数や転倒率、死亡率などがこれに含まれます。

 

アウトカムにおいて注意しないといけないのは、「必ずしも患者側の指標だけでなく、医療者側の指標も含まれるということですね。看護師の離職率や満足度もここに含まれてきます。

 

 

さて、ここまで読んできて、「アウトカムだけ測れば充分でしょ?」と思われた方もいるかもしれません。

しかしながら、このアウトカムだけに注目していると恐ろしいことが起きてしまいます。

 

あたなが認知症の高齢者が多く入院する病棟の師長で、看護部長から「患者さんの転倒率を下げなさい」という命を受けたとしましょう。

 

あなたの病棟ではただでさえ人手不足で忙しいのに、転倒率を下げるために見守りの密度を上げなければならず、少ない看護師はさらに必死に働かなければなりません。

普段は18時に終わる仕事が、20時までかかるようになりました(ストラクチャー)。

おまけに、転倒率を下げるために患者さんの抑制をより頻繁に行うようにしました(プロセス)。

 

 

あたなの努力の結果、患者さんの転倒率は15%から5%まで減り、それを見た看護部長は大喜び。「素晴らしい、この調子で頑張って!」と。看護部長は、看護師の帰宅時間が2時間も遅くなっていることや(ストラクチャー)、抑制されている患者さんが増えている(プロセス)ことなどは知りもしません。なぜなら、アウトカムしか測定されていないからです。

例えアウトカムが改善していたとしても、それに見合わないストラクチャーやプロセスを投入していたら、それは「良い方法」ではありませんよね。

こうして様々な角度から看護を評価し、ほんとうに意味のある改善につなげていくためにドナベディアンさんはアウトカムに加えて、ストラクチャー、プロセスという評価軸を加えたのです。

 

 

 

 

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アメリカの看護の質評価

さて、まずはアメリカで使われている看護の質評価方法をお伝えします。

 

最もメジャーなのが、The National Database of Nursing Quality Indicators (NDNQI)という組織が測定しているNursing Sensitive Indicatorというもので、 現在アメリカの2000以上の病院がこのデータベースに加入しているとのことです。

 

測定指標は以下*1,2 

➀患者一人当たりに一日で提供される看護時間(ストラクチャー)

②患者の転倒/傷害をともなう転倒(プロセス&アウトカム)

③疼痛の評価、介入、再評価のサイクル(プロセス)

④褥瘡の発生(プロセス&アウトカム)

⑤身体的/性的暴行(アウトカム)

⑥看護師の学歴/資格(ストラクチャー)

⑦看護師の満足度(プロセス&アウトカム)

⑧スキルミックス(看護師に占める正看護師の割合)(ストラクチャー)

⑨看護師の転職率(ストラクチャー)

⑩医療に関連した感染(ストラクチャー)

⑪静脈内注射による血管外漏出(プロセス)

⑫看護師の看護実践環境尺度による調査

 

 

さて、どうでしょうか。

 

転職率や職務満足度など、看護師に関わる指標が多いことに驚かれたのではないでしょうか?

こうしてしっかりと看護師側の指標も測定していれば、「患者さんは満足な退院を迎えたけれど、看護師は疲弊しきっている」という状況に対して、「質が低い」と客観的なエビデンスを用いて介入することができますね。

 

 

 

 

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日本の看護の質評価

では、我々の国の日本ではどうでしょうか?

残念ながら、日本ではアメリカのように2000もの病院が参加する看護の質評価のデータベースは存在しません。

 

 

日本看護協会

しかし、日本看護協会が2015年に看護の質評価を行うためのデータベース構築を本格的に始動し、全国の病院が参加し始めています。2018年には全国の病院の6.8%にあたる570病院、5098病棟が参加しているということです*3。

 

全170項目という充実した項目数からなっており、その中にはアメリカのNDNQIでも使われていた褥瘡、転倒、看護師の学歴なども含まれています。

課題としては、このうち必須入力項目は10項目のみであり、その10項目に含まれる看護の質評価指標は看護師数のみです。他の項目を入力するかどうかは各病院の看護部が自主的に判断しています。

 

 

看護の質評価というのは、「評価できる項目が多ければ多いほど良い」というものではありません。

データがあるということは、そのデータを入力した人がいるということです(電子カルテから抽出したとしても、そのシステム設計や正確さを確認するための人材が必要になります)。

 

例えば、あなた自身が突然看護部長から「今日から質評価担当ね。ここにある100項目について全ての病棟のデータを入力しなさい」と言われたらどうでしょうか?

「うへぇ」と思いますよね。

 

80項目を過ぎたあたりから疲れてきて、「あー、ここなんて書いてあるか読めないから病棟の人に確認しないといけないけど、めんどくさいから勝手に埋めちゃおう」と入力が雑になってくるかもしれません。

 

つまり、データの項目数とデータの正確性は等価交換になっているのです。また、項目が増えるほど入力にかかる人員、予算は増えますので、コストも大きくなります。

 

ですから、より良い看護の質評価データベースを開発するためには、理想と現実の間を行ったり来たりして悩まねばならないのだと思います。

 

 

 

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厚生労働省

平成22年度から、厚生労働省は「医療の質評価・公表等事業」というものを行なってい、現在で約1000か所の医療機関が参加しているようです*4。

 

36項目を測定しているのですが、このうち看護に関わるものは、

➀入院患者満足度

②職員満足度

③転倒・転落発生率

④インシデント・アクシデント発生率

⑤褥瘡発生率

⑥麻薬処方患者における痛みの程度の記載

⑦手術患者での肺血栓塞栓症予防・発生率

⑧職員の予防接種率

 

などですね。

ここでも、思いのほか看護師自身に関わる指標が組み入れられています。

 

 

ただ、やはりここでも課題としては、データ収集の負担や人材不足を理由として参加病院数が伸び悩んでいるようで、質の高いデータベースを構築する際の苦悩がうかがい知れます。

 

 

 

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まとめ

さて、いかがでしたでしょうか?

看護の質評価って言えば、患者さんのことばかりかと思っていたけれど、看護師の満足度や看護師の離職率など、ちゃんと看護師自身のことも評価対象としてくれていたことを嬉しく思います。

 

こうした質評価指標が全国の病院に導入され、公開されるようになれば、患者さんのQOL向上に繋がるだけではなく、看護師の労働環境が改善したり、大学卒看護師や専門看護師がより正当にその実力を評価され、その結果が給与に反映されるようになるかもしれません。一方で、やる気と実力のない病棟は「ここの病棟は看護の質が低い」と評価され、淘汰されていくことになるので、現場にはよりやる気と実力がある看護師さんが残るようになり、看護界全体が活性化することに繋がるのではないかと思っています。

 

 

ですので、私は自分自身の研究テーマとして「医療データベース解析」というものを選びました。

 

DPCといって、医療保険のデータを用いて医師や看護師、手術や薬が患者さんに与える影響というものを明らかにしようと研究を学んでいます。

 

先生方や先輩にご指導頂き、絶賛修行中ですが、将来的にはここで教えて頂いたことを看護への広げていき、世界や日本の看護のデータベース構築に貢献したいと思っています。

 

看護のデータベース研究にご関心がある方、ぜひお話ししましょう^^

 

 

 

引用

1: http://www.pressganey.com/solutions/clinical-excellence/nursing-quality

2: 小林美亜, 看護の質をどう評価するか, 週刊医学界新聞

3: https://www.nurse.or.jp/nursing/practice/database/

4: https://www.min-iren.gr.jp/hokoku/hokoku_h29.html

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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