看護師の仕事ってなに?法律の観点から

「看護師の仕事がどうあるべきか」という議論をするうえで、法律上看護師の仕事がどう定義されているかを知ることは重要だと思います。

 

保助看法を含む医療関連法規の土台の下に日本国内の「看護の仕事」が決められているため、そこを無視して「看護の仕事はどうあるべきか」と議論を進めても、地に足のつかない、ふわふわした意見交換で終わってしまう恐れがあるからです。

 

なお、今回の記事を執筆するうえでは國學院大學名誉教授である平林勝政先生より東京大学大学院の看護管理学特論の授業にて教えて頂いた知識を大いに参考にさせて頂いております。

 

 

 

土台となる医療関連法規

医療関連法規においては医師法、保助看法、薬剤師法、臨床検査技師法などの各職種ごとの法規が定められておりますが、法律上は各職種間の関係性は対等ではありません(身分に上下があるということでは決してありません)。

 

最も法的に上位の法規として、

 

  1. 医師法、歯科医師による医業、歯科医業独占
  2. 保助看法による療養上の世話の独占
  3. 薬剤師法による調剤の独占

の3つがあります。

 

「じゃあ他の職種は医療に関わる仕事はしちゃだめってことじゃないの?」と思われるかもしれません。

そうなると当然日本の医療が破綻してしまうので、法律上は「それぞれの職種が、他の職種にその独占業務の一部を例外的に行うことを認める」という形になります。

 

日本の実臨床における感覚からすると、「医師が法的に全権限を有し、他の職にもその一部を行なうことを認めている」と感じるかもしれませんが、実はそうではないのですね。

保助看法における”療養上の世話”、薬剤師法における”調剤”はそれぞれの職種の独占業務でありますが、条文中に「医師、歯科医師だけはやってもいいよ」但し書きを付け加えることによって、例外として行うことを許されているという関係になっています(薬剤師法における調剤においては、医師・歯科医師の調剤が認められるのは自己の処方箋による調剤のみ)。

 

 

療養上の世話

さて、さきほど「療養上の世話」は看護師の独占業務であると言いました。

これはつまり、例外である医師・歯科医師を除けば、看護師だけが患者の療養上の世話を行なう権利を有しているということです(実際には家族や介護士による世話も行われており、保助看法とのずれが生じていますが)。

 

療養上の世話を考える時に非常に大切なことは、これが「医師が業務独占する医行為に含まれてはおらず、看護師固有の独占業務である」ということです。 

これはつまり、療養上の世話に関する判断を下し、それを行なう上では医師の指示が必要ないということです。

 

実臨床においては食上げ時や(患者の嚥下力の改善に合わせて、食事の状態をゼリーなどから通常の食形態へと上げていくこと)、患者の移動制限解除時(患者の歩行能力を鑑みて、どこまで自由に動いていいかという制約を設ける)には医師の許可を仰ぐことは珍しくないと思いますが、これらが療養上の世話にあたると考えると、医師の許可は不要であるということになります。

もちろん、疾病の管理を行う医師の判断は看護師が療養上の世話を行なう上で、重要なソースの一つですから「医師の話を聞く必要は全くない」というのは不適切な態度だと思いますが、「医師の許可がなければ行えない」というわけではないのかもしれません。

 

 

診療の補助

さて、療養上の世話とならぶ看護師の独占業務が診療の補助ですね。

こちらは医師の指示なしに行なえた療養上の世話とは性質が異なり、「臨時応急の手当てを」するという例外を除けば、必ず医師の指示が必要になります。

 

これを規定するのが保助看法の37条です。

第三十七条 保健師、助産師、看護師又は准看護師は、主治の医師又は歯科医師の指示があつた場合を除くほか、診療機械を使用し、医薬品を授与し、医薬品について指示をしその他医師又は歯科医師が行うのでなければ衛生上危害を生ずるおそれのある行為をしてはならない。ただし、臨時応急の手当をし、又は助産師がへその緒を切り、かん腸を施しその他助産師の業務に当然に付随する行為をする場合は、この限りでない。

 

「看護師は医師や歯科医師がやらないと衛生上危ない行為はやっちゃだめだよ、でも彼らの指示があった場合は別だよ」と言っています。

 

この一文があるから、看護師は採血をしたり、吸痰したり、導尿したりとできるわけですね。

以前私は、診療の補助=医師の手伝いをやらされている、と誤った解釈をしていたことがありました。某看護系参議院議員にそのことをぼやいたところ、「それは違うよ。診療の補助があるから、看護師は医療においてとても広い権限を有せているんだよ」とたしなめられ、自らの誤解に気づきました。

 

 

さて、先に述べたように診療の補助も看護師の独占業務ですから、基本的には看護師以外の職種は診療の補助を行なうことができません(放射線技師、歯科衛生士、歯科技工士の一部業務は別)。

でもそれだと病院を回していくのなんて不可能ですし、医療技術の発展に伴って看護師の専門性だけでできることにも限界ができ始めてきたので、「他の職種にも診療の補助の一部を行なう権限をシェアする」という形でタスクシェアが行われてきました。

 

介護福祉士の吸痰、臨床検査技師の採血・生理学的検査、理学療法士と作業療法士の療法、臨床工学技士の生命維持装置の操作、言語聴覚士の嚥下訓練などがそれにあたります。

 

翻せば、看護師は診療の補助という権限のもとで、これらの専門職同様に彼らの業務を行なうことができるのです(一部そうでないものがありますが)。

これが、私が看護師が非常に魅力的な医療人材だと考える理由の一つ、「医師に次いで広い法的権限を持つ」ということでした。

 

 

看護師と医師の関係

上記をもとに、看護師と医師の関係を図にするとこんな感じです。

*日本看護協会「看護職の社会経済福祉に関する指針:医療事故編」をもとに筆者が作成

 

 

医師は医業独占により医行為を独占し、看護師は保助看法により療養上の世話を独占しています。

二つの円が重なり合っているBの部分が診療の補助になります。

 

さて、さらにこの図の中に「絶対的医行為」と「相対的医行為」という名前があるのが見つかるでしょうか?

絶対的医行為というのは、文字通り「絶対に医師でなければできない医行為」であり、例えば診断や処方、手術などの高い専門性を要する医行為です。

相対的医行為とは、絶対的医行為以外の医行為のうち、看護師の知識と技術でも行うことができる医行為を言います。例えば先ほど挙げた注射や吸痰、導尿などですね。

 

このように医行為が分類されているということはつまり、「看護師であれば診療の補助のもとにどんな医行為でもやっていいというわけではない」ということです。

 

しかしながら、どこまでが絶対的医行為で、どこからが相対的医行為なのかは個別の医行為ごとに明示されているわけではありません。あくまでも慣習や現場の倫理観に照らして、「ここまではやってもいいよね」というラインが形成されてきていました。

そして、うやむやだったこのラインを明確にし、看護師が安心して相対的医行為を行なえるようにするためにできたのが特定行為に関連した法規ですね。

 

 

まとめ

さて、今回は看護師の仕事を法律という視点から眺めてみました。

 

ポイントは、

  1. 療養上の世話は看護師の独占業務であり、医師の指示を得る必要はない
  2. 診療の補助のもとで看護師は非常に広い医行為を行う権限を有している
  3. 医行為には看護師が行える相対的医行為と、行えない絶対的医行為がある

 

の3点です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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