交代制夜勤と乳がん罹患リスクの関係 前向きコホート研究

 

 

”エビデンス”シリーズでは看護系の論文を紹介しています。

有料論文においては、無料で閲覧できる範囲(Abstract)の紹介に留めております。そのため、このブログを読んでも研究の全貌を知ることはできません。Abstractのみを読んで研究の結果を解釈することはできませんので、ご興味のある研究があった際には、ぜひ下記のリンクから論文が掲載されたサイトを訪問することをお勧めいたします(有料論文を見るためには契約が必要です)。

 

 

研究の概要

論文

Rotating night shifts and risk of breast cancer in women participating in the nurses’ health study

J Natl Cancer Inst. 2001 Oct 17;93(20):1563-8.

 

Research question

夜勤は乳がん罹患リスクを上昇させるか?

 

PECO

P:Nurses’s Health Studyに登録された78562人の看護師 

E:月3回以上の夜勤を行なった年数が長い

C:月3回以上の夜勤を行なった年数が短い

O:乳がんの罹患リスク(incident rateで測定)

 

 

Abstract

Introduction

メラトニンには抗がん作用があり、夜間に光を浴びることでメラトニンの生産が抑制される。しかしながら、夜勤が癌リスクに直接的に与える影響については充分に調べられてはいない。そこで夜勤が乳がんの罹患リスクに与える影響を調査することにした。

 

Method

Nurses’s Health Studyに登録された女性78562人を10年間追跡した。夜勤回数に関する情報は1988年に取得され(追跡は1988-1998年にかけて行われた)、夜勤回数は「月3回以上夜勤を行なっていた年数が何年か?」という形で調査されている。多変量回帰分析で交絡および乳がんリスクを調整し、Relative risk (ここではincident rate ratio)を計算した。

 

Result

10年間の追跡後、2441人に乳がんが発症した。

月3回以上の夜勤を”1-14年”、”15-29年”続けた群でmoderateな乳がんリスクの上昇が観察された(RR 1.08, 95%CI 0.99-1.18 / RR 1.08, 95%CI 0.90-1.30)。さらに、夜勤を”30年以上”続けた群ではさらなるリスクの上昇が観察された(RR 1.36, 95%CI 1.04-1.78)。夜勤と乳がん発症リスクのdose-response trendの分析は統計的に有意であった(P=0.02)

 

Conclusion

日勤に加えて最低月3回以上の夜勤を行なっていた女性においては、夜勤を経験した年数が伸びるにつれて、穏やかに乳がん罹患リスクが上昇していた。

 

 

感想

Nurses’s Health Studyという看護師を対象にした大規模コホートを使って実施された世界的に有名なコホート研究である。女性における主たる慢性疾患のリスクについて研究する目的で設立された。

第一waveは1976年に実施され、現在では第三waveとなり、275000人の女性が参加している。ホームページからは本コホートを用いて出版された論文が閲覧できるので、気になる方はそちらにアクセスすると良いかも。

 

本研究の結果では、月3回以上の夜勤をしていた年数が長いほど乳がん発生リスクが上昇したことが報告されている。ここで気になるのは、「夜勤をしていた年数が長い←年齢が高い」、「年齢が高い→乳がん発症リスクが上がる」ということで、年齢が交絡となっているのではないかということである。

Table1を見ると確かに年齢の平均値には差がある(当然、夜勤経験年数が長い群ほど年齢が高くなっている)。著者たちはこの問題に対処するため、年齢を15歳ごとの群に分けて多変量解析に投入したことに加え、さらに年齢を連続変数とした解析、年齢を2歳ごとの群に分けた解析を行っていた。

 

もう一つ気になるのが、がんの発症など暴露から発症までの期間が緩やかである際に起こりうるInduction period(誘導期間)である。Induction periodは、暴露から発症のスイッチが入るまでに必要な期間であり、この期間中には生物学的には発症リスクはないと考えられるため、Incident rateの計算においては分母の人年に換算してはならない。本研究では1988年に過去の夜勤経験年数を調査し、1989-1998年の乳がん発症を追跡しているため、例えば「1987年に初めて1年間夜勤を行ない、1998年に乳がんを発症した」という女性も乳がん発症者としてカウントされうる。この場合、この女性の人年は 1998 – 1987 = 11年ということになる。しかし、この期間には前述の「暴露はしたが、生物学的には乳がんを発症しえない期間」であるInduction periodが含まれていることが考察されるため、乳がんリスクを過小評価している可能性があると感じた。

 

なぜCox回帰ではなく多変量回帰を用いたのかという疑問があるが、論文中の記述によれば追跡中に繰り返された患者調査の時間間隔が短く、かつアウトカムの発生率が低いため、本研究の解析手法(Pooled logistic regression)はtime-varying covariates(継時データにおいて変数が繰り返し測定される時に生じる)を考慮したCox回帰に近似するらしい。

 

本研究は看護研究ではなく、「看護師を対象にした慢性疾患のリスク研究」であるため、プロジェクトが看護学の研究者によって率いられているわけではないが、責任者のリストを見ると、一人だけ看護師免許をお持ちの教授がいらしゃった。マサチューセッツ工科大学の生物統計・疫学部門の教授をされているよう。

 

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