看護師の学歴と患者死亡率の関係 横断研究

 

 

”エビデンス”シリーズでは看護系の論文を紹介しています。

有料論文においては、無料で閲覧できる範囲(Abstract)の紹介に留めております。そのため、このブログを読んでも研究の全貌を知ることはできません。Abstractのみを読んで研究の結果を解釈することはできませんので、ご興味のある研究があった際には、ぜひ下記のリンクから論文が掲載されたサイトを訪問することをお勧めいたします(有料論文を見るためには契約が必要です)。

 

 

論文の概要

論文

Nurse staffing and education and hospital mortality in nine European countries: a retrospective observational study

Lancet. 2014 May 24;383(9931):1824-30. doi: 10.1016/S0140-6736(13)62631-8. Epub 2014 Feb 26.

 

Research question

学士を保有する看護師の数は患者死亡率に関連しているか?

 

PECO

P:ヨーロッパ9か国にある300病院において一般的な手術を受けた50歳以上の患者

E:多い学士保有看護師数

C:少ない学士保有看護師数

O:30日以内患者死亡

 

 

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Abstract

Introduction

病院支出を最小化するための緊縮政策とヘルスシステムの再構築は、患者アウトカムを悪化させるリスクを持つ。看護師は病院経営における支出の最大の構成要素の一つであるが、RN4CAST studyはその看護師に関する意思決定を支援するためにデザインされた。我々は、RN4CASTに参加した12か国のうち9か国において、患者あたり看護師数および看護師の学歴が一般的な手術後の患者死亡率とどう関連しているかを調査することを目的とした。

 

Method

本観察研究のため、ヨーロッパ9か国にある300病院において一般的な手術を受けた50歳以上の患者422,730人の退院データを使用した。入院30日以内死亡率はリスク調整して計算され(調整された因子は年齢、性別、入院形態、43の手術種類、17の入院時併存疾患である)、これらのデータは標準的な方法で記録されている。研究参加病院の26,516人の看護師に対する調査を使用して、看護師配置数と看護師の学歴が測定された。術後患者の入院30日以内死亡率に対する看護関連因子の影響を明らかにするため、一般化推定方程式が使用され、病院および患者因子は未調整・調整済みの2種類の解析が行われている。

 

Result

看護師あたりの患者数が1人増えるにつれて、患者の入院30日以内死亡率は7%増加し(OR 1.068, 95%CI 1.031-1.106),学士保有看護師が10%増えるにつれて、患者死亡率は7%低下した(OR 0.929, 95%CI 0.886-0.973)。これらの関連は以下のことを意味している。60%の看護師が学士を保有し、かつ看護師が平均して6人の患者をケアする病院では、30%の看護師が学士を保有し、かつ看護師が平均して8人の患者をケアする病院よりも患者死亡率が約30%下がる。

 

Conclusion

財政節約のために看護師数を削減すると、患者アウトカムを悪化させる恐れがある。学士を保有した看護師数を増やすことにより、予防可能な患者死亡を減らすことができるかもしれない。

 

 

感想

著者のDr Aikenは前回紹介したDr Needlemanと同じく世界で最も有名な看護研究者の一人である。本研究は世界中の看護行政に影響を与えた研究だと言われている(そのようなエビデンスを目にしたことはないため、あくまでも私の近辺にいる看護研究者の評価によるものだが)。

個人的には、Aikenの論文の書きぶりからは研究者というより政治家的な色合いを強く感じており、本研究もIntroductionの段階で「看護師は減らしたらだめ!もっと高度教育を!」という強い意志を感じる(研究論文としてこのように特定の結果に傾いたIntroductionが妥当であるかどうかはおいておいて)。

なお本研究の極めて重大な限界として、患者あたり医師数が調整されていないということがあげられる。術後患者の死亡はおそらく敗血症などの術後合併症によって生じていることが推測されるため、執刀医のスキルや、術後管理を行う医師数などにも強く影響されると考えられる。学士保有の看護師数が多い病院は(日本の大学病院のように)、おそらく医師のスキルも高く、また医師数も多いため、こうした医師因子を調整していない本研究の結果からは、患者死亡率の低下が、学士保有の看護師数によるものなのか、それとも医師因子によるものなのかを区別できないと考えられる。よって、本研究の結果をもってして「学士保有看護師数が増えることで、患者死亡率が下がる」と言うことは難しいと思っている。より看護師の影響をピュアに見るのであれば、医師因子に強く影響を受ける患者死亡率よりも、Failure to rescue(救命失敗率といい、術後合併症を起こした患者のうち死亡した患者の割合である)を用いるのが妥当だと思われるが、本研究で使用されなかったのは合併症の発症がデータからは特定できなかったからであろうか?

いずれにせよ、学士保有看護師のコンピテンシーは国ごとに大きく異なることが予測されるため、本研究の結果を直接的に本国に適用することは難しく、本国での新たな研究が待たれるだろう。

なお、医師数を調整し、さらにFailure to rescueをアウトカムとして看護師数の影響を調査した研究として、本国で行われたものはこちら。この研究では、術後患者死亡には医師数のみが影響しており、看護師数は影響しないという結論になっている。

 

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